管理人:minoru_nがNikonF80にて撮影した写真を中心に日々の雑記を綴るサイトです。


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■My Favorite Novels #2

◎菊屋敷 山本周五郎・作
企画二発目にして、いきなり宮本輝氏の作品をはずれましたが、最近何の気なしに古本屋で見付けた「やぶからし(新潮社)」という氏の短編集に納められていました。

舞台は江戸末期、信州松本の儒官の娘「志保」を主人公として、その周囲の人々との交流を通した志保の心情を描いた物語です。
感情を抑制しひたむきに生きる志保と身勝手に奔放に生きる妹「小松」との対比的な描写から物語は始まります。
志保の元に、匿名の恋文が届くのですが、直後に妹からその長男晋太郎の養育を懇願され、その恋文の主への面会を断念します。
物語の最後まで、恋文の主は明かされませんが、父の門下生の中でも最も父の教えを忠実に実践する杉田庄三郎という青年がその手紙の主であるようで、彼の悲壮なまでの抑制された恋情が見事に描かれています。
志保は、晋太郎の母親として全てを投げ打って一心不乱に努めます。その決意と実践には子を持つ者として心に期すものがありました。
物語の最後には、身勝手な妹小松が晋太郎を取り戻しにあらわれるとともに、父の教えを実践する杉田らを「危険因子」として幕府の目付が取り押さえに来ます。
晋太郎は、志保とともに暮らしたいと望みながらも、そのような甘えは志保の教えに反するからと小松の元へ行く決意をします。
また、杉田らも彼らの信念を通し、彼らの遺志を継ぐ者がきっと現れると信じて捕らえられていく・・・。一見悲劇のような結末ですが、何かそれぞれが思いを果たしたような爽快な気分を残したまま「菊屋敷(志保の住まい)」の描写とともに物語は終わります。

と、まあ僕が書くととても安っぽくなってしまいますが、これが脱稿されたのが昭和19年-つまり戦時中という事を考えると、当時の抑圧された体制の中にあって、筆者の悲壮な信念と決意が描かれているようで、歳甲斐もなく涙してしまいました。
現代人が是非読むべき一冊だと思います。
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by minoru_n | 2005-12-19 23:06 | 読書